ORIHIME’s diary

利用していたブログサービスが閉鎖となり、旧記事とともに引っ越してきました。テーマは「好奇心、感動、そして感謝」です。

妖気漂う天才アーチストの美学

 

💚大正時代の異色&天才アーチスト、甲斐荘楠音

7月30日(日)午前中にNHKEテレで放送された「日曜美術館〜妖しく、斬新に、そして自由に 大正画壇の異才 甲斐荘楠音」をご覧になった方もいらっしゃると思います。わたしは、たまたま放送日の前日、東京ステーションギャラリーで彼の展覧会を見ていたので作品の一つ一つを思い起こしながら放送を楽しみました。

友人に誘われるままに出かけた展覧会でしたが、わたしは「甲斐荘楠音」という画家を知りませんでした。おまけに名前を読めませんでした。「かいのしょう・ただおと」と読むそうです。ぱっと見たとき、甲斐(山梨県)の山荘の名前かと思いました(^^;;

1894年、楠木正成につながる京都の裕福な家に生まれた楠音は、日本画家として高い評価を受けながらも画壇を去り、時代劇映画の衣装デザイナーに転身。風俗考証を研究する傍ら自らも役者を試みるなど、現代で言うマルチアーチストとして活躍しました。彼が衣装デザインを担当した溝口監督の作品「雨月物語」は、衣装デザインで米国のアカデミー賞にノミネートされました。

この展覧会では、画家としての彼の作品に再びスポットをあてるとともに、京都太秦で見つかった彼がデザインした衣装を展示。この展覧会のために、ニューヨークのメトロポリタン美術館とパリのシネマテーク・フランセーズ(フランスの映画保存センター)から日本画と時代劇の衣装が里帰りしています。   

 

💚日本画

「横櫛」1916年  ✳︎妖しさをひめた目は何を見ているのでしょう。

 

「幻覚(踊る女)」1920年ごろ ✳︎妖気が漂い夜間は見たくない作品です(^^;;

 

「毛抜」1915年ごろ ✳︎楠音の自画像と思われます。

 

「籐椅子に凭れる女」1931年 ✳︎全裸より艶めかしく感じます。

 

「春」1929年 ※ニューヨークメトロポリタン美術館

 

💚映画界へ 〜 時代劇の衣装をデザイン

旗本退屈男 謎の南蛮太鼓」1959年 ✳︎色彩とデザインの素晴らしさに目を奪われます。


旗本退屈男 謎の幽霊島」 1960年  ✳︎ただただ美しかったです。

 

雨月物語溝口健二監督作品 1953年  ✳︎楠音は衣装デザインと風俗考証を担当。映画はアカデミー賞衣装デザイン部門にノミネートされました。この衣装はその一部でシネマテーク・フランセイズ蔵。

雨月物語」の衣装を見てみましょう。

ほかにも「丹下左膳」「忠臣蔵」「新吾十番勝負」など、十数点の衣装が展示されていました。どれも、美しく、おしゃれで素晴らしかったです。着物の柄、デザインというより芸術を感じさせます。斬新な楠音の美学は時代を超越していると思いました。

 

💚演じる楠音  

女形役者になりきる楠音(右)

 

💚スケッチ

スケッチと下描きの展示が多くどれもとても魅力的でした。スケッチを見ることができただけでも、この展覧会にきて良かったと思えたほどです。一つの作品を手掛ける時、幾通りもの構図をスケッチして決めるのですね。

 

💚完成しなかった大作2点

「虹のかけ橋(七妍)」1915年〜 未完成 ✳︎老荘思想に準じて無為に生きた中国の七賢人になぞらえた7人の遊女たち。豪華絢爛な衣装に反し、遊女たちの表情にはほんの少し憂いが見えます。

「畜生塚」1919年〜 未完成 ✳︎デッサンのまま見つかった屏風絵。豊臣秀吉は養子の秀次を自害させ、彼の妻、側室、子どもたち39名を三条河原で処刑して埋めました。この絵は処刑を待つ女たちを描いています。

何の情報もなくこの屏風絵を見た時、何故かピカソの「ゲルニカ」が脳裏に浮かびました。ただならぬ残酷な修羅場を感じたのです。秀次の悲劇と知り、楠音の表現力の凄さに足がすくみました。西洋画を学んだ楠音は女性たちを西洋風に描いており、中央の女性は瀕死のキリストを思わせます。女性の身体ですが秀次を表しているのかもしれません。秀次と彼の女性たちの悲劇を、十字架にかけられたキリストの哀しみになぞらえているように思いました。必見の価値ある作品です。

💚NHK日曜美術館」再放送

楠音と、この展覧会を特集した日曜美術館〜妖しく、斬新に、そして自由に 大正画壇の異才 甲斐荘楠音」が8月6日(日)夜8時からNHKEテレで再放送されます。興味のある方はお見逃しなく!

 

🔹🔹🔹東京ステーションギャラリー

東京駅舎内(丸の内北口)にある美術館です。2階のミュージアムショップから駅のホールを見渡せる回廊に出られます。回廊から駅のホールを眺めながら一休みすることもできます。

美術館内の階段。レンガの壁が素敵です。