ORIHIME’s diary

利用していたブログサービスが閉鎖となり、旧記事とともに引っ越してきました。テーマは「好奇心、感動、そして感謝」です。

映画「ニュースの真相」 報道がもたらす危うさ

 

何十年もささやかれてきたブッシュの軍歴疑惑はなぜ消え去ったのか?

 
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時は、現職大統領が再選をめざしていた選挙戦の真っ最中。
対抗馬の民主党ジョン・ケリーにはベトナム戦争で輝かしい功績がありました。
三大ネットワークの一つがブッシュの軍歴疑惑をスクープするもその一部に捏造疑惑が発生。マスコミと大衆の関心は一気に捏造疑惑に集中して過熱。大統領選の結果を左右しかねない本筋の疑惑はまるでなかったかのように消え去り、疑惑の大統領は再選を果たしたのです。

アメリCBSの看板キャスター、ダン・ラザーを降板に追い込んだ捏造疑惑事件。
その顛末を、取材の指揮を執った元CBSのプロデューサー、メアリー・メイプスの著書に基いて製作された映画で、登場人物はすべて実名です。


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彼が最も信頼をよせるプロデューサー、メアリー・メイプス (ケイト・ブランシェット
CBSニュースのアンドリュー・ヘイワード社長 (ブルース・グリーンウッド)
 

疑惑の軍歴
ブッシュは父親のコネでテキサス州空軍に入隊してベトナム行きを逃れたとされ、兵役期間中、身体検査の義務をスキップしたり、父親の選挙の手伝いで長期間軍を離れて役務を満たさず、おまけに7ヶ月も早く除隊するなど、特別待遇を受けたという疑惑がありました。

2004年、再選を目指していたブッシュ大統領の軍歴疑惑を追っていたメアリーは、疑惑の信憑性を裏付ける文書を入手します。ブッシュの軍隊時代の上官、故キリアン中佐が書いたとされるブッシュに関する署名付きのメモでした。


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元軍人、大学教授、フリージャーナリストから成るメアリーの報道チーム。
 
 
 
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キリアン中佐の元上司に、メモの内容について裏取りをするメアリー。
 

大統領選が2ヶ月後に迫った9月、ダン・ラザーが放ったスクープは全米に衝撃を与えました。報道直後、一人のネットユーザーが、キリアンメモは Microsoft Word のフォントと形式で書かれているとネットに書き込んだのです。Microsoft はキリアンメモが書かれたとされる70年代にはまだ存在しませんでした。マスメディアはこの書き込みにとびつき、軍歴疑惑はメモ捏造疑惑と化してヒートアップしていきます。


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問題のキリアンメモのひとつ。スタウドがブッシュの評価を粉飾しろと執拗に圧力をかけて
くると書かれています。(スタウドとは下記シャンペン部隊のスタウド大佐のことです)


メアリーのチームはメモの信憑性を検証する作業に追われ、ラザー自身も取材にあたります。結局メモが本物であることを証明できなかったメアリーたちは、CBSが組織した調査委員会の審査にかけられ、CBSは番組で謝罪しました。


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メアリーは解雇され、彼女のチームメンバーも全員辞職。
ダン・ラザーは降板に追い込まれました。
映画は、疑惑のその後については言及せずに終わります。


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メアリーが入手したキリアンメモは複写で、出所を突き止めることができないまま公開してしまったのは手痛いミスでした。署名が本物と鑑定されても複写では意味をなしません。捏造と叩かれるのは致し方ないことで、CBSの信用を貶めたことも事実です。

疑惑のキリアンメモ
メモは4枚あり、公開されているので読んでみました。ブッシュが身体検査を拒んだ理由がコカインを吸引していたからなどと具体的で、スクープには都合が良すぎる内容でした内容はどれも以前から軍関係者の間で囁かれていたことなので、おそらく事実だと思いますが偽造されたとしか思えないこのメモはいったいどこから出たのでしょうか。文字フォントの違いを逸早く指摘したネットユーザーは何者だったのでしょう。

有名だったシャンペン部隊 
ブッシュが入隊した州空軍のウォルター・スタウド大佐が率いる部隊には、ブッシュのほか元テキサス州知事ジョン・コナリーの息子、石油王ハントの孫息子などテキサスの有力者の子弟や地元のフットボールチーム、ダラス・カウボーイの人気選手たちが所属していて、通称シャンペン・ユニット (部隊) と呼ばれ、よく知られていました。部隊の主な任務はテキサス湾岸の警備でした。ブッシュが兵役についた1968年、ベトナム情勢は悪化していて1週間に約500人のアメリカ兵が戦死していました。シャンペン部隊は、有力者の子弟がベトナムから逃れる駆け込み寺だったのです。こんなふざけた部隊が堂々と存在していたことにビックリですが、テキサスはそういうことがまかり通る地だったのでしょう。彼らが特別待遇を受けたことは推して知るべしです。


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シャンペン部隊入隊時のブッシュとスタウド大佐。心なしか大佐の顔つきが悪く見える?

キリアンメモはスクープの一部でした。ブッシュを疑うに足るいくつもの証言や既成事実があったにも拘らず、メモ騒動は彼の軍歴疑惑を丸ごとなかったかのように掻き消しました。ブッシュを襲った危機は幸運にも追い風となり、彼は2カ月後に勝利を収めます。イラク戦争アメリカの正義を訴えて再選されたブッシュの政権は、イラクを泥沼化してISを生み、史上最多の死刑を執行した政権となり、史上最低の支持率を記録しました。

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このスクープと同年、メアリー・メイプスが製作して世界にその事実を知らしめたアルグレイブ刑務所事件 (アメリカ兵によるイラク人捕虜虐待) のドキュメンタリーは 、メアリーがCBSを去った直後の2005年に放送界のピリッツアー賞に相当するピーポディ賞を受賞しました
 
 
キリアンメモの調査について語るほんもののダン・ラザー

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事実は小説より奇なり・・・・映画はハッピーエンドではありませんが、見応えがあり、極上のサスペンス映画のような満足感がありました。メアリー役のケイト・ブランシェットがはまり役で素晴らしく、ロバート・レッドフォードのキャスター役もさすがでした。渋さピカ一の名優ステイシー・キーチが捏造疑惑の鍵となる退役軍人役で出演しています。社会派ドラマがお好きな方にはオススメです(^^)


映画「ニュースの真相」 TRUTH
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