今こそ観たい・・映画「東京原発」
保険会社の知人によると、地震保険料金は地域により数倍の差があり、熊本は日本で一番保険料が安い地域だったそうです。大手保険会社が何人もの専門家を使って各地の地震発生リスクを算定した結果で、近年の被災地はいずれも想定外でした。
結局、国と民間の研究機関どちらにも地震の予測は不可能で、地震については、ほとんど何も分かっていないということです。そんな不確かな情報に基づいて全国各地に建設された原子力発電所。
十年以上前に観た映画「東京原発」を思い出し、レンタルDVDでもう一度観てみました。公開当時、まだ原発にさほど関心がなかった私にはビックリすることばかりでしたが、展開が面白くて、ゲラゲラ笑いながら鑑賞したことを覚えています。今回は、楽しみながらも以前のように無邪気に笑うことはできませんでした。
今ほどネット社会ではなかった当時、上映館を探すのに苦労しました。やっと探し当てた裏町の古びた小さな映画館の観客はわずかでしたが、映画は第一級の秀作でした。
慌てて原発について学ぶ都庁の幹部職員たち。ふだん語られることがない原発の実態を学んでいくうちに、ノーテンキだった彼らが次第に真剣な面持ちになる様子をコメディタッチに描いています 。
⚪️東海地震を想定した静岡の浜岡原発だけが、一般建築耐震基準の3倍の強度で設計されているが、ほかの原発は2倍以下。(ちなみに福島と熊本を襲った地震は約3倍)
⚪️電力の3割を原発が発電していると宣伝しているが、火力水力発電は2割から4割しか稼動していない。全国の原発を停止しても、真夏の冷房をほんのちょっと下げるだけで全国の電力をまかなえる。(これは福島原発事故の後、東京で実証されました)
⚪️日本の電気代は世界一高い。産業界はドイツの2倍、フランスの3倍、アメリカの4倍の料金を払っている。それでも電力会社9社の借金は総額30兆円。独占なので安心して借金出来る。
⚪️原発のタービンを冷やすために大量の冷却水を要するので、原子力発電所は海に面しているが、せっかく作った熱エネルギーの70%を海に放出している。その温排水が海中の温度を上昇させ、海中で発生する二酸化炭素の量が半端ではない。
⚪️原発推進の強力な追い風になった70年代のオイルショック。イスラエルに原油輸出停止を宣言したアラブ諸国に対し、原油輸入制限の対抗策をとった親イスラエルのアメリカに、泣く泣く追従した日本。日本政府は苦肉の言い訳として、根拠のない「石油は30年で枯渇」論を流布した。30年経っても石油は枯渇していないし、その兆候もない。
⚪️ウランは1000年分あるというが、それは高速増殖炉計画(もんじゅ)が順調に稼働した場合のこと。原発で燃やして使えるウランは0.7%しかなく残りの99%を高速増殖炉でプルトニウムに変えて増殖できれば60倍に利用価値が増やせる。この計画は危険で世界の先進国はすでに手を引いている。
⚪️使用済み燃料は核分裂させた後の放射性濃度が非常に高い廃棄物。この廃棄物の処理に世界各国が天文学的な金額を投入しているが解決していない。日本も兆単位で投入しているが、これは「経済的」とされている原発コストには含まれていない。(ブレーキ機能がない車両を大量生産しているようなもので、事故により被る損害と合わせ、原発は一番高くつく電力かもしれません)
都知事の発言に大わらわの都庁の外では、危機感のない原子力安全委員の不注意から、積荷がプルトニウムであることを知らないアル中のトラック運転手が、爆弾魔の少年にカージャックされるサスペンス劇が繰り広げられます。
都知事と幹部職員たちとのやりとりが胸にずしんときました。
「新潟や福島の原発には賛成するのに、何故東京には反対するのだ」「別に賛成しているわけではありません」「国の政策を傍観しているのは賛成していると同じだ」「個人が背負う命のリスクは5千人の村でも1千万人の都会でも同じだ」「日本で一番電気を浪費してその恩恵を授かっている東京都民がそのリスクを負わずに、原発をよその土地に押し付けていていいのか?」
演技派の俳優さんたちがみな素晴らしく、エンターテイメントとしても第一級の作品です。