ORIHIME’s diary

利用していたブログサービスが閉鎖となり、旧記事とともに引っ越してきました。テーマは「好奇心、感動、そして感謝」です。

技術大国ニッポン 〜 驚きの陶磁修復-復元技術

 

美術古陶磁復元師という職業を知ったのはつい数ヶ月前の事です。

 
東京ホテルオークラの敷地内にある美術館、大倉集古館で開催された「海を渡った古伊万里」展でのことでした。
 
佐賀県の有田とその周辺で生産された陶磁器は伊万里港から出荷されたので、海の向こうでは総じて伊万里と呼ばれ、江戸時代のものを古伊万里と呼びます。近代のヨーロッパでは東洋の陶磁器、特に伊万里は金よりも価値がある調度品として好まれ、王侯貴族がこぞって買い求めたそうです。
 
ウィーン郊外の城に所蔵されていた古伊万里を主とする陶磁が、第二次大戦直後、侵攻してきたソ連兵にその大半を破壊されてしまいました。城の主人は粉々に壊れた陶磁を捨てずに保存し、「戦争遺産」として公開していました。
 

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その一部を日本の技術者が復元。城が所蔵する名品とともに大倉集古館で公開されました。
 
下は修復-復元前と修復-復元後の古伊万里です。
 

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どう見ても傷ひとつない伊万里焼の大皿です。
実物を間近でじっくり見ても修復の痕跡が全くありません。
 
神業的技術で伊万里を復元させたのが、美術古陶磁復元師の繭山浩司さんです。

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幾つもの賞を受章している陶磁復元の第一人者で、父親は日本伝統文化振興賞を受賞した同じく復元師の繭山萬次さん。浩司さんは陶磁に囲まれた環境で父親の仕事を見て育ちました。浩司さんの息子の悠さんも祖父、父に続く3代目復元師として活躍しています。
 
大倉集古館では復元の工程が紹介されていました。
 
○まず、膨大な破片の山から繋がる破片を探し出します。
 
○破片の全ての断面にカット綿を巻き付け、スポイトで漂白剤を染み込ませて断面をクリーニングします。
 
○破片を接合します。欠損部分は素地を作って補填します
 
○染料を陶磁とおなじ色に調合して接合部分に埋め込みます。細い溝にはニードルを使います。
 
○類似する陶磁器の絵柄を参考にして、補填した素地に絵付けをします。
 
破壊された陶磁のほか、アウガルテン、マイセン、明治の有田など名品の数々が展示されていました。私は展示された作品の美しさよりも、復元の完成度の高さに目がいってしまい驚くべき技術に感動するばかりでした。