ORIHIME’s diary

利用していたブログサービスが閉鎖となり、旧記事とともに引っ越してきました。テーマは「好奇心、感動、そして感謝」です。

オルフェウスの窓 魅力ある登場人物 レオニード

 

頭脳明晰 クールなレオニード

レオニード・ユスーポフ

彼はいつ何時も自分がなすべきことを理解していて、私情に捉われることなく進むべき道を進む人です。常に自身を律していないとできないことですよね。暴走する列車から弟のリュドミールを救ってくれたアレクセイを見逃したことは、本来のレオニードにはあり得ないことでした。

リュドミールを暴走列車から救ったアレクセイと
リュドミールの兄レオニード

池田理代子さんがレオニードはホモセクシャルではないかと仰ったそうです。日本では古くから男色が文芸作品に度々登場しています。歴史上の戦国武将はほとんどが男色の気があるバイセクシャルだったようです。明日命を落とすかもしれないという緊張感と戦場では男ばかりという環境があってのことでしょうね。戦国時代以降、武士の台頭に伴い衆道が登場します。主君と部下の契りで精神性の繋がりが強い絶対服従の関係です。

レオニードとロストフスキーもこの衆道だったという見方もありますが、私は二人には同性間の感情はなく、ロストフスキーがレオニードを尊敬して彼の生き方に心酔していたのだと思います。ロストフスキーが嫉妬からユリウスを憎んでいたとの見方もあるようですが、ロストフスキーがユリウスを殺そうとしたのは、ユスーポフ侯と主従関係にあった事実が漏れることを恐れたからです。

レオニードは自分に厳しくストイックで、皇室と帝政を守る軍人としての任務に全霊をかけていました。何事にも清廉と正道を求めるレオニードが当時は邪道とみなされていた同性愛に浸ったとは思えません。女性に興味がなかった訳ではなく、惹かれる女性が周囲にいなかったのだと思います。皇帝陛下の命令で結婚した妻アデーレのわがままぶりに、女性とは非生産的な生き物だと思ったかもしれません。当時まだ20代前半だったレオニードが妻のわがままや愚痴をやんわりとかわせなかったのは無理からぬことと思います。

男に媚びず、自分を飾らず、駆け引きなしにまっすぐに向かってくるユリウスはレオニードには新鮮だったに違いありません。はじめのうちはユリウスを冷たい目でみていましたが、やがてユリウスに魅かれていきます。ユリウスはレオニードのバリアを少しずつ崩していきました。レオニードはそれとは気付かぬままユリウスを愛するようになり、やがて彼女を愛する自分に気付きます。

記憶喪失でアレクセイを思い出せなかったユリウスはレオニードを愛し始めていました。レオニードは、「お前に対して責任を持てるならわたしはとうにお前を奪っていた」と言いました。レオニードらしい誠実な言葉で、一段と彼を好きになりました。結婚していたレオニードは愛人を持つことに否定的だったと思います。愛するユリウスを妾の立場に置くことなど彼にはあり得ないことでしょう。またそれ以上に、ロシアは内では革命運動という爆弾をかかえ、外交ではドイツとの関係が悪化して戦争の危機に瀕していました。軍人のレオニードはユリウスを幸せにできる状態、つまり責任を持てる立場にはなかったのです。一時の感情で愛人をつくり捨てさったユリウスの父親とは大違いです。レオニードはドイツとの戦争が始まる前にユリウスを安全にドイツに帰そうとしていたのでした。

レオニードとユリウス

ユリウスはレオニードの話を聞きドイツに帰ることを決意しました。でもその胸の内は複雑でした。ユリウスはレオニードの誠実な言葉に彼をもっと好きになったと思います。それでもユリウスがユスポース邸を出ることにしたのは、話し終わったレオニードがすぐにユリウスを通り越して遠くを見ていることに気がついたからです。彼はさっきの話は忘れたかのように軍人レオニード・ユスーポフに戻っていました。レオニードはユリウスへの想いを断ち切ろうとしたのだと思いますが、このへんが彼の精神力の強さであり氷の刃と呼ばれる所以かもしれません。

とはいえ、アレクセイの助命嘆願をしたり、2月迄にアレクセイとロシアを出るようにユリウスに忠告したり、革命が成功したらユリウスと子どもをアレクセイ・ミハイロフのもとに返してやれと妹のヴェーラに頼むレオニードの懐の深さに胸が熱くなりました。嫉妬することなく兄の言葉を受けいれるヴェーラも素敵です。アレクセイが彼の深い心に気付いてくれたのがせめてもの救いでした。

皇帝から、隠し財産の秘密を守るためにユリウスを暗殺せよと命じられた時のレオニードの涙に私も涙。彼は初めて皇帝の命に背きました。

頭脳明晰なレオニードは、時代が帝政の終焉に向かっていることを感じていましたが、彼は皇室とその政権を守る軍人です。レオニードは最後まで自分の職務に忠実だったのです。

レオニードは、同じく由緒ある侯爵家に生まれたドミートリィやアレクセイが、道は違っても祖国を想う気持ちに変わりがないことを誰よりも理解していたと思います。時代と状況が違っていれば、意見が異なっても互いに尊重し合うよき朋友になったと思います。

 

革命が成功して、もしもですがアレクセイとレオニードがふたりとも生きていたとしたら、アレクセイはレオニードに政府の一役を担ってほしいと申し出たと思います。アレクセイは、健全な政権のためにはレオニードのような清廉な人物が必要と思っていたはずです。皇帝に忠実だったレオニードは断るでしょうが、アレクセイは祖国のためにと説得を続けて・・・なんて空想してしまいます。

権力に縁のなかった人が一度権力を手に入れるとその地位を守るために独裁的になることが多いようです。スターリンプーチンのように。アレクセイやレオニードのような人が初期政権の中枢にいたら、ロシアの将来は違っていたかもしれません。

 

ユリウスに幸せに暮らしているかときくレオニード